AI投資経済価値研究

【Yahoo!ニュース掲載】AIで「コーヒーを飲む時間」が増えた。なぜ給料は増えないのか?

2026-10-17 / 関 光三

当事務所代表・関 光三が執筆した、AIによる効率化と賃上げに関する記事「AIで「コーヒーを飲む時間」が増えた。なぜ給料は増えないのか?」が、Yahoo!ニュースに掲載されました。

AIで仕事が速くなっても、なぜ給料は増えないのか。省力化投資補助金の賃上げ要請や企業の人件費負担、海外との比較などを通じて、生まれた時間を経済価値に変え、その成果を従業員へ配分するまでの道筋を考察しています。休息や早く帰れる時間も、従業員への大切な還元として捉えています。

Yahoo!ニュース掲載記事

掲載記事:AIで「コーヒーを飲む時間」が増えた。なぜ給料は増えないのか?(関光三 行政書士)

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原掲載元:シェアーズカフェ・オンライン

原掲載日:2026年10月15日 6時30分

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以下に、シェアーズカフェ・オンラインの原掲載記事の全文を再掲します。

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AIで「コーヒーを飲む時間」が増えた。なぜ給料は増えないのか?

「AIを導入して仕事は速くなった。でも、増えたのは社員がコーヒーを飲む回数だけだ」

最近、補助金支援の現場で経営者から、このようなぼやきを聞くことが増えた。

従業員としてこの言葉を聞いたら、どう感じるだろうか。

経営者の立場なら、「せっかくAIに投資したのに、売上も利益も増えていない」と不満を感じるかもしれない。しかし、従業員の側から見ると景色は変わる。

これまで余裕なく働いていた仕事が30分早く終わり、コーヒーを飲めるようになった。残業せずに帰れるようになった。子どもの迎えに間に合うようになった。それもAIが生み出した成果ではないのか。

一方で、さらに素朴な疑問もある。AIによって仕事が速くなり、会社の生産性が上がったのなら、なぜ給料は増えないのだろうか。

結論から言えば、AIによる効率化が、そのまま賃上げにつながるわけではない。AIで生まれた時間を売上増加やコスト削減などの経済価値に変えること。そして、その成果を従業員に配分すること。この二つがそろって初めて、継続的な賃上げにつながる。

10年以上中小企業の補助金申請支援に携わり、現在はAI投資の経済的効果について研究する立場から、AIによる効率化を賃上げにつなげる道筋について考えてみたい。

国は「省力化したら賃上げを」と求めている

企業に対する賃上げへの要請は強まっている。

2026年度の地域別最低賃金は、答申ベースの全国加重平均で1,177円となった。前年の1,121円から56円の引き上げである。2026年10月から12月にかけて、各都道府県で順次発効する予定だ。

最低賃金だけではない。人手不足に悩む中小企業の設備投資やシステム導入を支援する「中小企業省力化投資補助金」でも、賃上げがこれまで以上に重視されている。

2026年の一般型第8回公募では、設備導入などの補助事業が終わった後の賃上げだけでなく、完了を待たずに行う「足下の賃上げ」も審査対象となった。

足下の賃上げ自体は、補助金を受けるための必須要件ではない。だが、公募要領にはこう明記されている。

『応募時の直近決算期から基準年度までの「従業員1人当たり給与支給総額」の年平均成長率が、物価上昇率を上回る程度にならない計画は「審査上大幅に不利」になる』

つまり、投資効果が出る前から、賃上げを行う計画が実質的に求められているということだ。

さらに、省力化によって生まれた時間や労働力を、より付加価値の高い仕事へ振り向け、賃上げにつなげられる計画かどうかも審査される。

制度の狙いは分かりやすい。国がお金を出して企業の省力化を支援するのであれば、その成果を企業の利益だけで終わらせず、働く人にも還元してほしいということだ。

ところが、企業側から見ると話はもう少し複雑である。

「3%の賃上げ」は企業にとっていくらなのか

数%の賃上げでも、企業の負担感は小さくない。例えば、従業員150人、1人当たりの年間給与支給総額が300万円の企業を考えてみたい。

仮に毎年3%の賃上げを2年間続けるとする。1年後は309万円、2年後は約318万円になる。1人で見れば、2年間で約18万円の増加である。

これだけでは大した変化には見えない。ところが150人なら話は変わる。

現在、年間4億5,000万円の給与支給総額は、2年後には約4億7,740万円になる。差額は年間約2,740万円である。

しかも、ここでは会社が負担する社会保険料などは含めていない。「3%の賃上げ」と聞けば、それほど大きな数字には感じないかもしれない。しかし100人、150人と従業員を抱える企業では、数%の違いが年間数千万円の支出になる。

筆者の支援先にも、150人を超える従業員を抱え、省力化投資そのものには前向きでありながら、賃上げによる将来の人件費負担を懸念して補助金への申請を見送った企業がある。設備投資には前向きでも、「その効果が出る前から人件費を増やし続けられるのか」が判断の壁になった。

もちろん、これは「だから賃上げをしなくてもよい」という話ではない。むしろ逆である。企業が継続的に賃金を上げるためには、増えた人件費を支えられるだけの価値を、省力化によって生み出す必要がある。

国は「生産性を上げて、賃上げにつなげてほしい」と考える。従業員は「生産性が上がったのなら、給料に反映してほしい」と考える。企業は「給料を上げ続けるためには、その原資を先に生み出さなければならない」と考える。それぞれの立場には、それぞれの理屈がある。

AIで楽になったのに、なぜ給料は上がらないのか

この構造は、AIでも同じである。例えば、AIを使うことで毎日1時間かかっていた資料作成が30分で終わるようになったとする。従業員には30分の余裕が生まれる。しかし、その瞬間に会社の銀行口座へ30分分のお金が振り込まれるわけではない。

その30分を使って営業活動を増やし、受注が増えれば売上になる。これまで残業していた仕事が定時内に終われば、残業代を減らせる。外注していた作業を社内でできるようになれば、外注費を減らせる。増員しなければ処理できなかった仕事を今の人数でこなせるなら、将来必要だった採用を抑えられる。ここまで来て、初めて短縮された「時間」が会社にとっての「経済価値」に変わる。

しかし、それでもまだ給料にはならない。

会社が生み出した利益は、設備への再投資にも使える。新規事業にも使える。借入金の返済にも回せる。会社に現金として残すこともできる。もちろん、給与や賞与として従業員へ戻すこともできる。どこへ配分するかは経営判断である。

つまり、AIによる効率化を賃上げまで届けるには、「時間を経済価値に変える」、そして「経済価値を従業員へ配分する」という二つの段階が必要になる。

PwC Japanが2026年に公表した6カ国調査でも、興味深い結果が出ている(参照・ 生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較 2026/06/10)。

生成AIによって生まれた効果を、従業員への利益還元や顧客への価格還元など、金銭的な還元につなげている日本企業は40%だった。米国は75%、英国は74%で、日本は6カ国で最も低い。さらに、生成AIの効果が「期待を大きく上回った」と回答した日本企業では、71%が従業員への利益還元につなげていた。一方、期待未満だった企業では14%にとどまった。

この結果だけから、「給料を上げればAIが成功する」と言うことはできない。ただ、AIを使うだけで終わることと、そこから価値を生み出し、その成果を人へ返すことは別の段階であることが分かる。

省力化投資補助金が、省力化した時間を高付加価値の仕事へ振り向け、その先の賃上げまで求めているのも同じ考え方である。

コーヒーを飲む時間にも価値はある

では、AIを導入して社員がコーヒーを飲む時間が増えただけなら、失敗なのだろうか。そうではない。ここは明確に分ける必要がある。

AIによって仕事に余裕ができた。休憩できるようになった。残業が減った。早く帰れるようになった。それ自体が、従業員への還元である。

休息は、賃上げまでの単なる通過点ではない。働く人にとって、お金だけでなく時間にも価値があるからだ。

PwCの調査でも、生成AIによる成果の還元先として、給与やボーナスだけでなく、成果に応じた時短勤務など「雇用時間への還元」が挙げられている。だから、「AIを入れたのに、社員がコーヒーを飲む時間が増えただけだ」という言葉を経営者側から聞けば、「利益につながっていない」という話になる。一方、従業員側から見れば、「以前より余裕を持って働けるようになった」という話になる。どちらも間違いではない。ただし、「では給料も上がるのか」と聞かれれば、さらに一段先が必要になる。

AIによる従業員への還元は、「時間を生み出す」「時間を経済価値に変える」「その価値を従業員へ返す」という三段階で考えると分かりやすい。

コーヒーを飲めるようになったことを、「何の成果もなかった」と切り捨てる必要はない。一方で、継続的に賃金を上げるためには、そこで終わることもできない。AIで生まれた余裕を会社の価値へ変え、その一部を働く人にも還元する。

では、企業は何から始めればよいのか。まずは「AIで何時間削減できたか」だけでなく、その結果として実際に何が変わったのかを測ることである。残業代が減ったのか。外注費が減ったのか。以前と同じ人数で処理できる仕事が増えたのか。売上や受注が増えたのか。

自社にとって金額に置き換えやすい数字を一つ決め、AI導入前後で比較するだけでよい。そこで経済的な成果が確認できたら、次に考えるのが配分である。その成果を次の投資に使うのか。給与や賞与として還元するのか。あるいは労働時間を短くするのか。

AIで生まれた時間を価値に変え、その価値をどう使うかまで決めて、初めてAIの成果は働く人に届く。AI時代の賃上げを考えるなら、問われるのはAIそのものではなく、AIで生まれた成果の使い方である。

関光三 行政書士/あす日和行政書士事務所 代表

著者プロフィール

補助金支援歴10年以上。中小企業の設備投資・システム投資等の事業計画作成を支援する一方、企業のAI投資によって生まれる経済価値と、その効果測定を研究している。青年海外協力隊、国際NGO、貿易会社など国際業務を経て、現在は補助金・助成金支援を中心に企業支援に携わる。

公式サイト:あす日和行政書士事務所