AI投資経済価値研究

【Yahoo!ニュース掲載】AIで「仕事が速くなった」だけで投資効果と言えるのか?

2026-10-04 / 関 光三

当事務所代表・関 光三が執筆した、AI投資の効果測定に関する記事「AIで「仕事が速くなった」だけで投資効果と言えるのか?」が、Yahoo!ニュースに掲載されました。

AIで仕事が速くなることと、企業に経済的な価値が生まれることは、どのように違うのか。短縮された時間の使い道、補助金の事業計画で重視される付加価値額、海外企業の測定方法などを通じて、AI投資を評価する際に確認すべき点を考察しています。

Yahoo!ニュース掲載記事

掲載記事:AIで「仕事が速くなった」だけで投資効果と言えるのか?(関光三 行政書士)

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原掲載元:シェアーズカフェ・オンライン

原掲載日:2026年10月2日 6時30分

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以下に、シェアーズカフェ・オンラインの原掲載記事の全文を再掲します。

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AIで「仕事が速くなった」だけで投資効果と言えるのか?

2026年9月1日、米Anthropicは新しいAIモデル「Claude Fable 5.1」を発表した。その2日後の9月3日には、OpenAIも「GPT-6 Astra」を発表している。

両社の発表を見ると、AIでできることがまた一段増えたことが分かる。OpenAIはAstraについて、コンピューター操作、調査、コーディング、文書や表計算、プレゼンテーションの作成などを挙げている。コンピューター操作の評価では、従来モデルより短い時間で高い成績を出した例も示している。

新しいAIモデルが出るたびに、「こんなことまでできるようになった」「1時間かかっていた仕事が数分で終わった」といった話題が出る。SNSでも、資料作成、調査、画像作成、表計算など多くの活用法が紹介されている。

私自身もAIを日常的に使っているので、新しいモデルが出れば試す。以前は難しかった作業ができるようになったり、数時間かかっていた作業が短時間で終わったりすると、進歩を実感する。

中小企業でも、外注していた資料や画像を社内で作る、専門知識が必要だった分析のたたき台を作る、文章作成や調査を短時間で済ませるといった変化は実感しやすい。人手不足の企業にとって、こうした変化の意味は小さくない。

企業で使う場合も同じだろう。今のモデルから乗り換えるのか、業務によってClaudeとGPTを使い分けるのか。もっと速くできないか、利用料金を下げられないか、安全に使えるのか。こうした比較は当然必要になる。

ただ、AI投資の経済効果について調べる中で、私は少し違和感を持つようになった。

「仕事が速くなった」「今までできなかったことができるようになった」ということと、その結果として企業に経済的な価値が生まれたということは、同じではない。

私は10年以上、中小企業の補助金申請支援に携わり、設備投資やシステム投資の事業計画書を作成してきた。現在はAI投資に関する相談も増え、その経済効果について調査している。

その経験から見ると、AIの効果への評価は「何時間短縮できたか」「何ができるようになったか」で止まりやすい。企業がAIを投資として扱うのであれば、その先まで見る必要がある。

「1時間が40分になった」は、会社にとって何を意味するのか

例えば、営業担当者が提案書を作るためにAIを使ったとする。これまで1時間かかっていた作業が、新しいAIモデルでは40分で終わるようになった。年間500件の提案書を作る会社なら、単純計算で約167時間が浮く。

業務効率が上がったことは間違いない。しかし、この167時間をそのまま会社が得た経済的な価値として扱ってよいのだろうか。

月給制の社員であれば、167時間短縮されたからといって、その時間分だけ給与が減るわけではない。一方、残業が減れば残業代の削減につながる。空いた時間で営業訪問を増やし、受注が増えれば売上や利益につながる。増員を避けられたのであれば、将来発生するはずだった人件費を抑えられる。

逆に、仕事量も残業も売上も変わらなければ、業務効率は上がっていても、167時間分の人件費が会社から消えたわけではない。

これはAIの効果がないという話ではない。「時間が生まれた」ことと、その時間が会社の価値に変わったことの間に、もう一段階あるということ。

「年間1万時間削減」「資料作成時間を50%短縮」「外注していた仕事をAIで内製化」。いずれも分かりやすい成果だが、投資として見るなら、その先で会社の何が変わったかまで確認したい。

補助金では「設備が速くなった」だけでは終わらない

この問題を考えるとき、私は補助金の事業計画を思い出す。

例えば新事業進出補助金などでは、事業計画の中で「付加価値額」の向上が求められる。この制度でいう付加価値額は、「営業利益+人件費+減価償却費」で計算する。

補助金申請では、「作業時間が半分になります」という説明だけでは事業計画は完結せず、その設備によって生産量を増やすのか、新しい仕事を受注するのか、外注工程を内製化するのか、人を雇い、給与を支払いながら利益も伸ばせるのか。設備の性能向上が、会社全体で生み出す価値の増加へどうつながるかが重要となるし、実際に、付加価値額の成長が基本要件の一つとなっている。

この考え方をAIにそのまま当てはめればよい、ということではない。AI投資を「営業利益+人件費+減価償却費」という一つの式で測るのには無理がある。

クラウド型AIの利用料金は設備購入の減価償却費とは性質が違い、AIで仕事が速くなっても、社員の給与を下げなければ人件費は減らない。ミスの減少や顧客対応の迅速化、負担軽減、リスク低下も、すぐ営業利益に表れるとは限らない。

それでも参考にできる点はある。設備そのものの性能ではなく、投資後に会社として何を生み出せるようになったのかを見ることである。

海外では「AIを使った結果」を測る議論が増えている

海外のAI企業やクラウド企業では、AIへの投資価値をどう測るかという議論が増えている。

AWSは2026年8月、「Calculating the Return on Investment (ROI) of AI」を公開した。AI導入で生み出したい「Business Value Metric」、つまり事業価値を表す指標を決め、導入前の状態を記録し、導入後と比較する考え方である。

ソフトウェア開発なら、AIが何行コードを書いたかではなく、リリースできた機能や修正できたバグなど、事業成果に近い指標を見る。さらにAIコストを成果と結び付け、「Cost per Outcome(成果1件当たりのコスト)」を把握する。

AWSは、AIへの1ドルの投資から2ドルの価値が生まれるのであれば、AIコストの増加自体は問題ではない、と説明している。つまり、AIコストを下げること自体ではなく、その支出がどの成果につながったかを見る。

Microsoftも2026年6月、自社内でAI投資の価値を測るフレームワークを公開した。売上への影響、生産性・効率、コスト削減、品質、セキュリティ・リスク、従業員・顧客体験という6領域に分けている。ここでは「生産性・効率」と「コスト削減」も別である。

つまり、仕事が速くなったことと、お金が減ったことを分けて見ている。さらに、生まれた時間や処理能力をどう価値へつなげるかまで見る。

OpenAIも2026年7月、「エージェント型AI時代のAI投資管理方法」を公表している。トークン単価だけではAIが価値を生んでいるか分からないとして、「採用可能な成果1件当たりのコスト」を追う方法を示した。

安いモデルでも、やり直しや人の修正が増えれば総コストは高くなる。逆に高価なモデルでも、一度で使える成果が出れば、仕事1件当たりのコストは下がる可能性が高まる。

AWS、Microsoft、OpenAIで方法は異なるが、共通しているのは、利用回数や短縮時間だけで評価を終わらせず、その先の業務成果や事業価値を見ようとしている点である。

日本企業は「どう使うか」の次へ進めるか

PwC Japanが2026年6月に公表した6カ国比較調査では、日本企業の生成AIの活用・推進度は87%だった。米国90%、英国89%などと比べても大きな差はない。

一方、「期待を大きく上回る効果」は日本が9%で6カ国中最も低く、「まだ効果を評価できていない」も13%あった(参照・生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較 PwC Japanグループ 2026/06/10)。

この結果だけで日本企業のAI投資が失敗しているとは言えない。調査対象は売上高500億円以上の企業・組織に勤務する課長職以上で、中小企業全体を表すものでもない。

少なくとも、この調査が対象とする大企業ではAI活用がかなり広がっている。

生成AIが登場した当初は、まず使ってみる段階だった。その後、安全に使える環境を整え、利用する社員や対象業務を広げてきた。現在は、どのモデルを使うのか、どう使い分けるのか、利用料金をどう抑えるのか、機密情報をどう守るのか、といった実務的なテーマへ進んでいる。

中小企業なら、「2時間かかっていた仕事が30分になった」「外部へ頼んでいたものを自社で作れるようになった」といった効果の方が実感しやすい。人手不足の会社なら、それだけでも大きな意味がある。

ただ、AIを使う裾野が広がった今、その変化が会社の何に結びついたかも確認したい。外注費は減ったのか。処理量や売上は増えたのか。意思決定や営業活動はどう変わったのか。

「できるようになった」と「経済価値が生まれた」の間を見る

AIによる成果を、すべてお金へ換算すればよいわけでもない。例えば、AIで問い合わせへの回答時間が半分になったとする。まず時間短縮を測り、次に1人が処理できる問い合わせ件数、さらに顧客満足度、再問い合わせ、残業、人員などの変化を確認していく。

その中で合理的に金額へ置き換えられるものがあれば、経済価値として評価する。

私は、AI投資を少なくとも次のような段階で見る必要があると考えている。

AIを使った→これまでできなかったことができるようになった。あるいは仕事が速くなった→仕事の進め方が変わった→時間、処理量、品質などの業務成果が変わった→その変化が、売上、利益、コスト、顧客価値など企業の経済的な価値へつながった。

前の段階が改善したからといって、次も自動的に改善するわけではない。

年間1万時間削減したなら、その1万時間を会社がどう使ったか。処理件数が2倍なら、需要があり、売上や顧客サービスの改善につながったのか。精度が上がったなら、修正や手戻り、事故、クレームはどう変わったのか。

ここまで追って初めて、「AIで何ができるようになったか」と「企業にどんな価値が生まれたか」の間がつながってくる。

AI投資は「経済価値」までつながっているか

AIの利用が広がった今、次に見るべきは「何ができるか」「どれだけ速いか」だけではない。その変化が、会社にどのような経済価値を生んだかである。

あなたの会社ではどうだろうか。

AIを使えるようになった段階なのか。仕事が速くなり、できることが増えた段階なのか。それとも、売上、利益、コスト、品質、顧客価値までつなげられているだろうか。

AIへの支出を「投資」として評価するなら、最後に見るべきなのは、AIでなにができたかではなく、その結果として会社にどんな価値を生んだかである。

関光三 行政書士/あす日和行政書士事務所 代表

著者プロフィール

補助金支援歴10年以上。中小企業の設備投資・システム投資等の事業計画作成を支援する一方、企業のAI投資によって生まれる経済価値と、その効果測定を研究している。青年海外協力隊、国際NGO、貿易会社など国際業務を経て、現在は補助金・助成金支援を中心に企業支援に携わる。

公式サイト:あす日和行政書士事務所